2016年11月29日火曜日

いつも乗る電車のシートは、青くて、7人分に区切られていて、すこしふかふかだ。冬は、あたたかい。まずそうなパンみたいだ。それに座りたいから、各駅停車にのる。わたしの降りない駅では、ぱらぱらと人が出て行ったあとに、扉がずいぶんと力強く、ぴしゃりと、閉じる。毎回毎回、それをやる。さっきまで隣や斜め前や後ろにいた人とは、ぱちんぱちんと分けられていくね、夜。


この間たまたま帰り道が一緒で、同じ電車に居合わせた友達は、随分と久々に会う友達だった。でも昔のことよりも、最近のこと、そしてこれから先のことを、青いシートに隣どうし座って、色々と話し込んだ。仕事がどうだとか、そろそろ結婚しなきゃなとか、歳の近い友達と話すと、最近はいつもそんなんばっかだ。昔あの時朝まで飲んで店を出た時の朝焼けが綺麗だったねとか、懐かしいねとかもはや、話さない。いちいち蒸し返してなにかをえぐり合うほど、親密な仲ではなくなってしまったのかもしれないし、昔よりもずっとずっと今とかこれからを優先すべきなんだよって、分かっちゃったからかもしれない。


とはいえそう簡単に明るい未来を手に入れられなさそうなわたしたちは、これからの人生はどうなるんだろうねえ、なんとかしなくちゃねえ、みたいなことを言い合いながら、青いシートに背中を預けていた。そのときの友達の、半径1mの空間をキョロキョロと見ているような、もっと、電車の窓の向こうの、遠いところを眺めているような瞳を、わたしはどうしてか忘れることができない。友達は先に電車を降り、扉はぴしゃりと閉じ、わたしたちはまたぱちんと区切られ、あああああ、わたしはあの子と、またいつか会えるかなあ、あの子には、ずっと笑っていてほしいなあと、考える。

友達の目。見覚えがある。あの頃のあの子とも、こうしてしみじみと話をしたことがあるなあ。そのときもあの子は、ああいう目をしていたなあ、と。


あの頃のあの子に、あの頃のわたしがもう一度逢えたら。


そういうことを考えてしまうから、わたしはわたしの降りるべき駅で、電車を降り損ねてしまう。丸くなっていくわたしの目と、なじるように、諭すように、ゆっくりとやさしく閉じる扉、あたたかく沈んでゆくまずそうなパン、戻れない時間たちよ。

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