2016年10月13日木曜日

オリオンが絡まる

バスに乗って青梅街道を走っている。
混雑したバスの中は守られているようになまあたたかい。おじさん達のスーツのジャケットの微かな毛羽立ち、ななめ前の席に座っている女性のファンデーションの浮き、降車口付近にいる学生と思しき女の子達の、高く巻きあがるような喋り方。終わろうとする1日、その終わりにむけてゆっくりとささくれ立つような蒸気で、このバスは満たされている。
わたしは後ろから二番目の二人掛けのシートに深く腰を掛けていた。窓から微かに伝わってくる冷気のようなもので、左側の頬がどんどん冷たくなっていくような気がする。このまま窓の外に目をやろうものなら、すぐに何か見たくもないものが目に飛びこんできそうだ。わたしは結んでいた髪をほどき、下を向いて出来るだけ身体を縮こめた。

最近の専らの悩みはオリオン座のことである。
どれだけ走ってもオリオン座が追いかけてきて、からだに絡まってしまう。バスの中に紛れているとよく分からないのだが、どうせ今も追いかけられているのだろう。

だいたい区境のあたりでわたしはバスを降りる。降りてすぐに歩道橋の階段をかけあがる。そして歩道橋の真ん中あたりでやはり、オリオン座と目が合ってしまった。追いつかれているというか、もうくっついてしまってるようなものなのかもしれない。黄色く染まりかけた銀杏並木が笑っている。さっきまで自分が乗っていたバスは、勿体振るかのように遠のいていった。歩道橋の真ん中で、わたしはオリオンと対峙する。ああこの時が来たなあ、と、毎度思う。それでもなるべく気にしないようにして、わたしは歩道橋を渡る。オリオン座はゆっくりと、さりげなく、でも確実に、わたしに絡まりついてくる。

オリオン座はひやっとしてるので、正直肌に触れるたび飛び上がりそうになる。
でも、飛び上がったら終わりだと知っているので仕方なく耐える。飛び上がろうものならそのまま冬空の星にされてしまう。取り込まれてしまう。まあ人生それも有りっちゃ有りかなあとは思うんだけど、取り込まれたところで何千年とか何万年とか経ないと輝いたり瞬いたりはできないらしいから圧倒的に損だ。地に足つけて、オリオン絡めて生きていたほうがいい。

歩く。心なしか背中がこわばるような感覚がある。まあ、絡まってるんだからしょうがないのか。でもなあ、ちょっと疲れる。背骨を気にしながら、青梅街道沿いを歩く。ずっと、ずっと私はそうしてきた。だからよく分かっている。今、ここで空を見上げれば、そこにオリオン座が寝そべっているということを。わたしのからだに絡まった事どころか、触れた事もないような顔をして、夜空に堂々とした姿で君臨し、こちらを見ているんだか、見ていないんだか、何考えてるんんだか分からないようなきらめきで、遠い空に浮かんでいるということを。そしてどういうわけか、そうやって見上げている間は、背中も、心も軽々しく、何もかもを許せるような気持ちになってしまうということも。







今日、鈴虫とかの鳴き声、小さくない?
ていうか、少なくない?

冬になってきた。
嫌だな。