2015年10月23日金曜日

すみれスメル

わたしは香水が苦手なのだけれど今日、「すみれの香りですよ」と言われて香水のしみこんだ紙を渡された。すみれの香りならいいかな、と思って嗅いだらトイレの芳香剤のにおいがして悔しかった。

むかし、酒の席にて冗談のつもりで「すみれを摘みにいってきます」といってトイレに行き、ふつうに手ぶらで席に戻って同席していた先輩に「すみれは?」と指摘されてしまったことがあった。正直そこまで考えてなくて「すみれは全部トイレに忘れました」と適当に言い、結局トイレに行ったことを明言してしまったとあとで気付いてとても悔しかったことを思い出した。

2015年10月11日日曜日

キャベツ

近所の、近所だけどあまり行かないエリアを散策していたら、知らぬ間に随分と歩いてきてしまったようで、一面キャベツが植わった畑のまんなかにいた。
10月に入りすっかり日も短くなって、17時すぎだというのにあたりは既に薄暗く、肌寒い。そのひんやりとした薄暗の中に自分が1人立っていて、周りには四方八方キャベツが植わっている。無数のキャベツの隙間隙間におそらく大量に秋の虫がいて、全員が全員羽を震わせ鳴いているようだが、それはつまり静寂である。なんていうところに迷い込んでしまったんだろうと不穏な気持ちになった。

そんなところにひとりでいると気持ちがすごく遠のいていくかんじがする。ここは果たして現代の東京であるのか、それともなにか記憶や瞑想の最果てであるか、わからなくなって怖くなる。だけどそれと同時にどこかこの上なくすばらしいことのようにも思えて、ノスタルジーであったりセンチメンタルであったりの美しい蜜を吸うような気分になる。はやく帰りたいような、別にまだここにいてもいいような気がした。

ほんとうにだれもいない。東京で暮らしていると、外にいてまわりにほんとうにだれもいないことなんてあんまりない。真夜中や早朝であればまだしも、夕刻はみな東京にある数少ない感傷の蜜を吸いにきているのか、誰かしらいる。しかし、いま夕刻であるのに、ほんとうにだれもいない。まわりに植わっているこれらは、キャベツのように見えて全て人の頭かもしれないと思うほど、異様。もしも歩みをとめようものなら、足がするする地面に埋れていくんじゃないかと思った。

それなのに歩みを止めてしまった。なぜならばわたしを追い越す影があって驚いたからだ。足元をトコトコ呑気に通り過ぎていった。ねこかもしれない。わたしはねこ見たさに目をこらし目の前をいくそれを追いかけた。幸いなことに足から植わってしまうこともなく、ねこらしきものもおもむろに足をとめ、しかもぐるりとこちらを振り返った。

そのとき遠くで電車のはしる音がして、それを皮切りにわたしの耳はこの町の生活のざわめきのような音を捉えるようになった。

目の前でたぬきがこちらを振り返っていた。ちょうど街灯に照らされていたぬきはスポットライトを浴びてるようだった。たとえば「すべて幻でした」などといった重大な発表が彼のほうからあり次の瞬間にキャベツ畑もろとも消えていたりするのでは、と覚悟したがそういうこともなく、わたしに提示された重大な事実とはただただ「奴がねこかと思ったのにたぬきだった」ということだけだった。

それから5分ほどあるくと知っている道に出た。夜になっていた。金属製のキャベツをあしらった石碑があり【キャベツの碑】というのを見かけた。金属製のキャベツはなかなか精巧なつくりだった。

東京にもたぬきがいてキャベツ畑がある。捨てたもんじゃないかなと思う。また何かの拍子に行けたらいいな。たぬきはキャベツを荒らさないようにしてほしい。



2015年10月2日金曜日

いたずら

散歩をしているととあるマンションのエントランスの外壁の一部だけに、なにか液体の垂れた跡のような汚れが目立つかんじがして、こういうのは高圧洗浄機みたいなのがあるといいんだけどなあ、なんて勝手に考えていた。
そしてふとその壁面に貼られているちらしのようなものに目が止まる。どうやらそれは注意書きのようで、上部に「警告」と明朝体で書かれその後にこのような文面が載っていた。

「近頃この壁に生卵をなげつけるといった悪質ないたずらが多発しています。このようないたずらを目撃した方は下記までご連絡ください」

そうして白けた怒りと呆れをそのまんま文字にしたかのように冷たく管理センターの電話番号が記載されているのだった。

それが何を意味する悪戯であるのかまったく見当がつかないが、わざわざ生卵をそこに持参して、生卵を直に手に持って、マンションの共有部だなんていう悪意の矛先に響きにくい場所にわざわざ、投げつけたりするのはやっぱり、いろいろ間違っていると思う。投げつけるとき、なにか暴言のひとつでも吐きながら投げるんだろうか、それとも黙ってサッと投げつけササッと立ち去るのだろうか。きになる。

なにはともあれあの壁にはやはり高圧洗浄をしたら良いと思うが、勝手にケルヒャーをもちこんで勝手に高圧洗浄をしたら、それはそれで怒られそうなのでそのままにしておく。

しばらくしたらまた前を通ってみようとおもう。