2015年4月14日火曜日

神経

雨の中買い物に行ったらパン屋さんも八百屋さんも「雨の日のおまけ」をしてくれた。
ある商店の店頭に掲げられたホワイトボードには大きく傘のマークが描かれており、その下に
『今日の名言:ばかばかしいとわかっていてばかばかしいことをしているならばかばかしくない』
といったようなことが書かれていた。

買い物の後母親の病院までバスで向かう。
混み合ったバスだったが乗り合わせた他の客はばらばらと先に降りていってしまってじきにわたしは1人になった。雨粒がたくさんついた窓から外を眺めているとエンジンが止まった。長い信号待ちでアイドリング・ストップを実施したようだった。バスひとつぶんの静寂の中なんとなく意識を遠くへ投げようとして、いざ振りかぶったくらいのところでなにかガサガサガサ コロコロという音が車内に聞こえ渡りハッとした。運転手のアナウンス・マイクのスイッチがオンのままだったようで、運転手は飴をたべているらしかった。
飴を食べるのは良いけどライブ中継は困るなあ、なんて思っているとゴソッという音と同時に運転手がくるりとこちらを振り返った。
わたしは驚いたが動じなかった。客が何人いるか確認したのだろうと思って、わたし1人きりですまないと思った。再びエンジンがかけられ、バスが動き出すとマイクの音も気にならなくなったので、わたしは再び窓の外へ目をやった。

そのときであった。運転手が何か喋りだした。アナウンスではない。
「いやぁさっきのお客さんは残念でしたね、気の毒だったけどあそことあそこの間ってバス停ないから」
まったく話がわからなかった。無線で誰かと話しているのかと思って何も言わなかったがよくよく考えたら無線でさっきのお客さんとかどことどこの間とかタクシーじゃあるまいし、もしかしたらわたしに話しかけているのかもしれなかった。
しかしわたしですらそのさっきのお客さんのくだりを知らなかったので、返答のしようがないまましばし時間が経ってしまい、もうどうしようもなくなった。
以後わたしはどうするべきだったのかしらと考える以外のことは出来ず、やもすると先程運転手が振り返った際に定年退職後病気が発覚し闘病の末亡くなった先輩運転手の霊かなにかがいて、戸惑い少し気まずくなった挙句の業務寄りな雑談だったのかもしれない、などと妙なことを考えてみる。そうすると先程飴を食っていたのは?とかさらにおかしな方向へ思考が巡ってしまってその間やっぱり黙りこくることしか出来ず、結果的にシカトしてしまった。

そうこうしているうちに降りる駅が近づいてきてわたしは降車ボタンを押した。短いブザーの音が鳴り止むと運転手はハキハキとした口調で普通の車内アナウンスを行うのであった。なんの違和感かはもう分からないが居てもたってもいられなくなり駅につく少し前の時点でわたしは席を立った。そんなわたしを目視するや運転手は極めて業務的な口調で着くまで席を立たぬよう注意してくるのであった。

ばかばかしいことは、もちろんばかばかしいとわたしは思うのだけれど、あの運転手と雨のせいで神経の乱れがひどく、ずっと頭が痛い。

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